ライブは一人で
大好きなアメリカのロックバンド、Nightrangerナイトレンジャーの日本サヨナラ公演に行ってきた。
年齢的なことや諸事情で、一番いい状態で終わりたいという彼らの姿はこの武道館公演が見納め。ちなみに初来日から40数年、77回目の来日公演。寂しい気持ちとワクワクとが入り混じる、複雑で特別な思いで挑んだ。
それはもういつも通りの素晴らしいライブであり、更に最後に相応しく、あまり演らないレア曲や、今年亡くなったオジーオズボーンへのトリビュートやhighway starなども織り込まれた、スペシャル感満載の約2時間半。70歳オーバーとは思えないパワー全開のステージに時間はあっという間に過ぎてしまった。終わって欲しくなかった。
しかも今回は一生分の運を使い果たしたのでは?というアリーナ2列目の良席。最後にメンバーが投げたピックも飛んでくる距離で、推しドラマーが投げた手袋を2つ隣のお兄さんがキャッチした。羨ましいが、そこは同じファン同士、嬉しい気持ちは共感できる。明転した後思わず、すごいですね!と話しかけてしまった。するとその連れのお兄さん(隣)がゲットしたピックを私に譲ってくれる奇跡が。紛れもなく大ファンであろうお兄さんが、こんな貴重な物を譲ってくれる優しさに感激したと共に、最後にして最高のライブの感動と、彼らへの惜別の念を分かち合うかのように、固い握手を交わした。
と、ここまでは良かったのだが…
ピックをもらい横を見ると、一緒に観ていた友人が「いいな〜」と憮然としていた。それに気づいたのかお兄さんが、たまたま床に落ちていたピックを拾って渡してくれるというこれまた奇跡が。有り難い。これで一件落着とホッとして彼女に渡すと、あまり嬉しそうな顔をせず「良かった、平等になって」と一言。
反射的に、あーごめんね!と言ったが、あまり気に留めていなかった。お礼もそこそこに出口へ歩き出した彼女の異変は始まっていたのだが、私の脳内はライブ後の高揚感に満ち溢れて、それ以外のことは入ってこなかったのだ。
私は歩きながらも名残惜しくステージの写真を撮っていた。いつもなら待ってくれるだろう彼女が、待たずに行ってしまい、気づいた時には出口へ向かう群衆に紛れてはぐれていた。武道館正面出口でやっと追いつくと彼女は「遅っ💢」と怒りを露わにしサッサと歩き出した。
ほんの少しだけど待たせてしまったから、「悪い悪い。ステージに日本語のメッセージがあったから撮りたかったの〜」と柔らか口調で可愛く言ってみるも、無視して早足で歩いていく。
ちょっと待たせただけでこの態度。さっきのことが尾を引いているのだ。ほんの数分前まで最高潮だった感情をぶち壊す、無神経な振る舞いに腹が立った。
押し黙り最寄駅まで歩きながら、楽しい気分を台無しにされた悔しさでいっぱいになった。ライブの余韻に浸りたいのに、なんでこんな嫌な気持ちに支配されなきゃならないのか。いやだいやだ。待ちわびていた折角の特別な日なのに。
しばらくしてやや怒りが治まった彼女が当たり障りないことを言って歩み寄ってきた(いつものパターン)が、話す気にならない。だったら最初からやるなよ。すぐカッとなって言葉に出す性格なんとかならんのか。
でも最高の時間のあとにこんな気分で過ごすのはマジで辛すぎた。何もなかったことにしようと自分に言い聞かせ、必死で気持ちを立て直し、その後は普通に振る舞った。
帰宅して改めて思い出したらムカムカモヤモヤ。
彼女の怒りの理由を推察すると、二人いるのに私だけにくれたお兄さんへの非難と、断りなしに自分の物にした私の配慮不足、ということか。
確かに聞かなかった。頭にもなかった。
なぜならそもそもファンだったのは私で、ライブもずっと1人で参加してきた。誘ったわけでもない。何かの折に、ナイトレンジャーのライブがすごくいいという話をしたら、行きたいと言うのでチケットを取ってあげたのだ。有料会員の先行予約だからあんな良席で観られたわけで、何なら感謝して欲しいくらいだ。
お兄さんがピックを私にくれたのも、前段階がある。開演前のこと、早く着いた私は席に座っていて、少しして同年代とおぼしきお兄さん2人が隣に座った。突然会場の一部が沸き立ったので見ると、前方からクルーがスマホで客席を撮っていた。すかさず手を挙げる私。兄さん方も猛烈アピール。まだうちらの周りに客はおらず、結果的に3人でスマホに向かってポーズする形になって思わず笑ってしまい、和やかな空気だったのだ。
ライブ中の熱狂ぶりにも、長年のナイトレンジャー愛が汲み取られ(多分お互い)、万感の思いで彼らを見送る同じ経験をしたからこそ、最後の記念に下さったと受け止めている。
一方、遅れて着席した友人は、周りがほぼ男性だったせいか、「うるさい」と怪訝な表情に。開演前から盛り上がる客席の所々で、流れるハードロックと共に歌ったり叫んだりというのはよくある光景だが、彼女の気に障ったらしい。特に隣の例のお兄さんに向けて、わざと聞こえるように「黙ってられないのかな~」などとのたまうので、オイオイそりゃライブを前にして仕方ないでしょといさめたが、納得してない様子だった。なぜか時々急に気難しくなる。でもそんなのどうでも良かった。これから大好きなバンドが一世一代のライブを行うのだから。…そして始まってしまえば彼女も盛り上がっていた。
こういうくだりがあってのピック事件。私にしたら、ケチつけてた兄さんからピックを貰おうってか?である。
もし私が逆の立場なら本心はどうあれ、良かったねと共に喜び大人の対応をすると思うが、都合の良い想像に過ぎないのだろうか。
まあ自分が気が回らない人間なのは認める。一言断ればあんなことにならなかったのだろう。ただ時と場合を考えて、怒りを抑えて欲しかったと強く思うのは自分勝手なのか。
心に残る記念すべき日本ラストライブ。図らずも見ず知らずのファン同士の心温まる交流もあり、感動で幕を閉じた…。はずだった。
いやもう余計な記憶は消去して、楽しかったことだけ思い出そう。
やっぱりライブは一人で行くのが性に合っている。